あの国の本当の思惑を見抜く 地政学を読んだ

はじめに

最近のイラン情勢や地政学的リスクなど、世界情勢をちゃんと抑えていきたい気持ちが高まったので、読んでみました。世界が地政学的なパワーバランスによって、均衡が保たれているなんて知らずに生きてきた僕にとって、新しい発見がたくさんある面白い一冊でした。

アメリカは「最強」じゃなかった

この本で一番興味深かったのは、アメリカが地政学的には最強ではないということでした。漠然と世界最強の国だと思っていました。でも海洋国家であるアメリカは、海に守られている一方で、その海のせいで構造上ユーラシア大陸に力が及ません。

むしろ大陸国家のほうがポテンシャルがあります。陸で国境がつながっていれば侵略は簡単だし、ユーラシア大陸には世界の人口の7割、GDPの6割が集中しています。ここを統一されたら海洋国家は太刀打ちできません。アメリカが世界中に800か所以上の基地を置いて、GDPの5%を軍事費に使っているのは、強さの誇示じゃなくて「ユーラシア大陸に覇権国を生ませないための防衛本能」だったそうです。アメリカの最大の関心事は「ユーラシア大陸に覇権国を生ませないこと」で、これが全ての出発点になります。

海と陸で世界を見る

この本では世界をユーラシア大陸と沖合の島々に二分して考えます。日本もイギリスもアメリカも島の側。この分け方がおもしろかったです。今まで考えたことがありませんでした。

海で隔てられた国同士は防御有利で協力しやすい。陸続きだと攻撃有利で対立しやすい。たったこれだけの原則が、同盟関係や戦争の構造をかなりの精度で説明できるようでした。

アメリカが怖がられないのもこれで分かります。海に囲まれていて、民主主義で、独裁者の謎ロジックで勝手に攻めてくることもない。だから日本やヨーロッパは、遠くのアメリカより近くの中国やロシアのほうが怖い。怖いからアメリカに基地を置いてくれと頼む。アメリカ、実はめちゃくちゃ世界平和に貢献してるかもしれない(?)と思っちゃいました。

ロシアは弱いから広い

ロシアの章もおもしろかったです。

「国境を守る術はない。それを広げる以外には」この引用がすべてを物語っているように感じました。ロシアの前身であるキエフ・ルーシはモンゴル帝国に滅ぼされました。その後もポーランド、スウェーデン、フランス、ドイツと、33年に1回のペースで侵攻されています。平坦な地形に国があるから攻め込まれ放題で、だから領土を広げて縦深を確保するしかない。強いから広いんじゃなくて、弱いから広くならざるを得なかった、と。

この視点で見ると、プーチン個人の野心だけでウクライナ侵攻を説明するのは、少し浅いなと感じました。数百年間の攻められ続けた歴史がロシアという国の行動原理を作っています。NATOが20年かけて東に拡大していったのも、ロシアから見れば国境のすぐ近くに敵の軍事同盟が迫ってきているわけで、そりゃキレるだろうと思いました。中国がカナダとメキシコと軍事同盟を結ぶと言い出したらアメリカだってキレそうだし、構造的にはそれと同じように感じます。

日米同盟の意外な機能

日米同盟には日本の軍事力に蓋をする機能があるそうです。考えたことがありませんでした。

アメリカ軍が守ってくれるなら、日本が独自に強い軍事力を持つ必要はありません。中国にとっても、日本が独自に軍を持つよりは、主力が遠いアメリカ本土にあるほうがまだ安心できます。日米同盟は日本のためだけじゃなく、中国にとっても安心材料になっている。同盟って一緒に戦う約束ぐらいに思っていたけど、もっと複雑な力学が働いているんだなと思いました。NATOも同じで、ヨーロッパの部隊だけでソ連を押し返す想定ではなく、フランスにアメリカの上陸拠点を残しておくのが役割だったそうです。

安全保障のジレンマ

読んでいるうちに繰り返し出てきて、だんだん分かるようになった概念です。自分の国を守ろうとして防衛力を高めると、隣の国からは攻撃の準備をしているように見えて、相手も軍備を増強する。結果、双方の緊張が上がります。

例えば、日本が北朝鮮に備えてミサイル防衛を強化すると、中国もそれを脅威に感じる。日本は北朝鮮しか見ていないのに、中国からすれば自国に向けられたものに見える。陸続きの国同士はこのジレンマを構造的に抱えてしまうそうで、解消する方法がないのが厄介だなと思いました。

政治は陣取りゲーム

台湾有事のシミュレーションを読んで、正直怖くなりました。中国が台湾に侵攻すると同時に在日米軍基地をミサイル攻撃するシナリオです。安倍元首相が「台湾有事は日本有事」と言った意味がよく分かります。

こうやって歴史を地政学の視点で見ていくと、政治って陣取りゲームだなと思います。原始的だけど、このゲームは現代でもまだ続いている。大陸を制覇したい潜在覇権国と、それを阻止する海洋国家の対立構造は、マッキンダーの時代から変わっていません。ウクライナ戦争も、この長い対立が少し表に出ただけです。自分が住んでいる日本もこの構造の中にしっかり組み込まれていて、日米同盟は地政学的運命だというこの本の結論は、読み終えた今、納得できます。

おわりに

地政学、面白いですね。正直これまであまり興味がなかったんですが、世界情勢は最低限理解しておかないといけないと思い読み始めて、かなり面白い分野だと感じました。読み終えた後、なぜか世界地図が欲しくなりました。今年読んだ本で面白かったランキング更新したかもです。おすすめの一冊です。